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日本のWEBサービスは、穴だらけである。連載第二回 山本一郎(個人投資家・作家)

2017.05.02

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Work Switch編集部です。「日本のWEBサービスは**だ!」をテーマとした新連載、第二回目の論者は個人投資家・作家の山本一郎さんです。

投資家というポジションで多くのベンチャー企業の栄枯盛衰を見てきた山本さんにとって、日本のWEBサービス界隈におけるお金の動きは非常に気になるものがあったようです。さっそくご覧ください。

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■大手の顔色を伺ってばかりじゃ前進できないけれど

 投資界隈をうろうろしていると、どう考えても「それは違法だろう」、実現すればそれは確かに便利だろうけれども、既存の法律ど真ん中で破ることになるビジネスが跋扈していることに気付きます。

 もちろんベンチャー企業の経験が長い人や、若い起業家の人たちが集まる場所では、リップサービスも含めていろんなことが語られます。例えば「既存の法律をハックするのだ」とか「体制を破壊するのがベンチャーの役割だ」などといった、法律を破ることを前提に仕事をするのが当たり前であるかのような物言いが飛び出し、それをたしなめる”大人”もいない、というのがベンチャー企業経営者の中では持てはやされる世界なのです。

 確かに、いつまでも大手サービスの顔色だけをうかがっていては前に進めないし、そんなベンチャー精神のない人は起業家に向いていません。昔からグルメサイトはたくさんあって、大手が乱立していたのは誰もが知っている話です。そこへ新しいサービスコンセプトを引っ提げ、スマホ時代に最適化されたウェブサービスを考えたり、個人情報をうまく整理して新しいビジネスモデルを構築すれば、ヤフーやリクルート、デジタルガレージといったIT系大手が林立していても勝負になるベンチャー企業が組成できます。

 また、新しい世の中の胎動を敏感に察知して、古い仕組みがいまなお横たわる不動産界隈や自動車リースの世界にも「シェアリングエコノミーだ」といって参入し、大手企業からの出資を受け、はばたく若手起業家も出てきているのが実情です。経理業務にクラウドで参入し、個人間売買で、ギャザリングで、旅行アレンジサイトで、様々な分野が改めてイノベーションに晒されることで世の中がより便利になり、果ては保守の権化というべき銀行までもがウェブサービス充実や海外送金の手続き簡素化のためにブロックチェーン技術の導入に大きく踏み出すという状況にあるのが昨今の日本のウェブサービスのダイナミズムであるわけです。

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■日本のWEBを取り巻く“百鬼夜行”

 ところが若く野心的な経営者ほど、自分の事業が軌道に乗る、あるいは、自らが考え出した事業プランが多くの“大人”に評価されるという事態になると、一気にマネーゲームに走ってしまうのも傾向としていまも昔も変わりません。

「自分さえうまくいけばいいや」という経営者のマインドが「上場ゴール」という言葉を生み、株式上場直後に下方修正を発表するような雑な経営をしたり、経営不振を分かって創業者である大株主が発表前に売り抜けるという問題を起こすことはこの界隈が如何に危険水域にまで差し掛かっているかを指示しているといっても過言ではないでしょう。何も知らない投資家は金づるとして馬鹿にされ、市場の監視などどうせ分かっていても何もしてこないだろうと高をくくっている部分もあるのかもしれません。

 夜の街に行けば、文字通り女性を侍らせる上場企業経営陣に出くわすこともありますし、ベンチャー企業経営者に気持ちの良い体験をさせておだてて資金を吐き出させるサイクルを自前で持つベンチャーイベントの仕掛人が、次なる価値あるウェブサービスを担う有望な事業や起業家が網にかかるのを待っています。たいした事業をしていないウェブメディア企業を高値で通信会社に買い取らせたり、次はIoTだ人工知能だクラウドだビッグデータだと立派なスローガンを掲げて中身のない事業に「ほかに買いたい人がいるから」と値段を釣り上げて買わせる仕組みは詐欺とまでは言いませんが少なくとも欺瞞には満ちています。

そのぐらい、ウェブサービス系の事業を取り巻く環境というのは百鬼夜行であり、上場直前に反社会的勢力に食い込まれていることを示す文書がばら撒かれて上場が差し止めになったり、国民的なアイドルグループのコンテンツを利用したゲーム企画があると吹聴して株価を引き上げたりといった事例に事欠かず、どこに倫理があるのか、正義とは何なのかと柄にもなく首をひねる事例が多発することになるのです。

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■我が国の産業は「やったもん勝ち」

 思い返せば、人間が欲望を全開にして成長産業に人生を賭するとき、往々にして資金にまつわる黒い話や派手な女性関係の醜聞が乱舞するのは高度成長時代からありました。赤坂の街を黒塗りの車が並んでいるのを見ながら大学に通っていた私は、バブル経済に踊る日本社会全体が倫理なき企業活動という宴の頂点を演出していたのを思い出します。建設会社の社長や株長者が芸能人やメディア関係者とゆかしげな関係を築いていたのは束の間のことで、そこからの転落劇で苦汁を味わう時代の寵児の話は多くが失われた20年とともに過去の風景へと変わっていきました。

 では、そこから低成長時代となり、少しは過去を学んで理知的で倫理的なビジネス環境になっているのかといえばそうでもありません。何しろ、能書きとは裏腹にまったく動く見通しの立たないロボット事業や、99%動けばまあいいだろうぐらいのネット業界の軽いノリで試験実証に乗り出して無事に事故って事業自体が頓挫する自動運転事業が平然と上場準備してきたぐらいの世界です。

宝くじレベルでさえ当たる気配もないバイオベンチャーが何か凄そうな論文を出したと発表して暴騰する程度には、投資家の側も欲の皮が突っ張っているので、結局はウェブサービスを含めたベンチャー企業の界隈が「多少のグレーゾーンは許される」とでも思っているのかもしれません。高利貸し同然の「紙幣をヤミ市に出品させて手数料を得る」サービスを手掛けたり、クラウドソーシングを使って一記事200円という破格の安値で記事を量産して一日2万件の記事を掲載し検索エンジンのAIを騙し読み手を流入させようとしたり、まあ酷いもんです。

 仕掛けを知ると「何でそんなバレたら風評が地に落ちるようなことを」と彼らの軽率さを侮蔑する気持ちにはなるのですが、実のところ彼らは彼らなりに真剣なのです。「他よりも良いサービスを」「もっと価値のあるものを」と考えたときに、すでにある事業者よりも良い仕組みを構築するにあたり、法律なんか守っていられない、顧客の安全や情報管理など二の次という話になって、結果的に数十万件のクレジットカード情報がセキュリティコードごと暗号化もかけずに置いたサーバーをクラックされて流出することになるのです。なぜそこにお金をかけないのかと後講釈的には不安になりますし、実際に問題を起こして深々と謝罪したはずが、十万件単位で著作権の無断流用を認めた割に申し出た著作権者には「千円払います」みたいな外道のごとき事後処理をしているわけであります。

 そうであるからこそ、我が国の産業というのは「やったもん勝ち」であり、目的のためには手段を選ばない人が一定規模まで事業を成長させ、うっかり上場するとよほどのことが無い限り事業停止だ訴訟沙汰だという話にはならないのです。過去にも、個人情報を勝手に流用して問題多発の自称マーケティング会社が地方自治体を騙して公的な施設である図書館の施設運営者になっていたり、ゲームプレイヤーの顔色を見ながら貴重なレアカードの排出確率をいじって売り上げが増えたことを自慢するプレゼンを投資家の前で披露したり、という事例が事欠かなかったのです。

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■笑いながら振り返られる生き方を

 過去に成功した事業家がやってきた行動の数々を知っていれば、投資家に夢を語ると称して事業成果をでっちあげる投資依頼書を渡したり、違法と知りつつ顧客の金をポイント制にして払い出しを遅らせて自社の広告宣伝費に流用して成長を目指したりしても何も問題がないと感じてもおかしくはないでしょう。

グループ決算を見たら利益の八割が不適切なブーストによるランキング不正操作の幇助サービスだったとか、単なるニュースアプリのはずが個人情報を無断で収集するスパイウェアもどきだったりとか、インフルエンサーマーケティングを自称していてよく見たらほぼ全部ステルスマーケティングだったりとか、経営不振の企業をわざと買収して政府ののれん代を計上することで登記経常利益を水増しして増収増益を喧伝したりとか、ウェブサービスを順調に成長させるには、そういう手練手管もひとつの芸風とばかりに割り切れる人でしか頭一つ上には出られないのは自明のことなのかもしれません。

 問題は、そういう倫理観のないグレーゾーンを走らせてパッと見は高収益を実現しているようにする手法を教える、いわば指南役として介在する“大人”がいることです。もちろん、派手にやるとすぐに素性が割れますし、彼らは彼らでリスクを負っている部分もあるのですが、一方で界隈からは実績があったり、起業家からメンター的な存在として尊敬されたりしているのが厄介なところです。

事業の内容を見て長期投資をやる人間からすれば、そういう人たちがかかわる界隈は地雷なのであって、たいていにおいて日本国内でしか通用しない人たちであり、必ずシンガポールや香港、マカオなどに節税用の出先機関を置いてうまいことやろうとしているのが特徴的です。当局と話をしていると、まあだいたい何をしているのかバレているようでもあるのですが、そういう“大人”は十年もすればほとんど消えていますから、と言われる界隈でもあります。仲良くイベントで志を語っているように見えて、何かあるとタレコミをしている人もいるのかもしれません。

 確かに、バブル経済を生き残ったとされる企業家も投資家も、ある局面だけ切り出してみるとビジネスではうまくいった、才能を発揮したと言えても、家庭が壊れてしまったり、不運な摘発で転落してしまったりという御仁も少なくないのを見ますと、人間どこかでバランスがとれるように高みから神は見ておられるのだということを実感します。100%胸を張れる仕事ばかりではなかったとしても、笑いながら振り返ることのできるような生き方をすることが、ウェブサービスなど人の便利に貢献する仕事に携わる人間が心がけるべきことなのではないかと強く感じる次第です。

<了>

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