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「会社のために頑張るな。自分のことをやれ」田中泰延特別寄稿

2017.03.16

tanaka_topWork Switch編集部です。「30代はどう生きるべきか」をテーマにした短期集中連載も、今回で最終回となります。最後を飾る書き手は、24年間務めた電通・関西支社から独立し“青年失業家”を自称するに至ったコピーライター田中泰延さんです。

ウェブサイト『街角のクリエイティブ』での洒脱な映画評論をはじめ、多くのファンを集める田中さん。現在47歳の田中さんも30代の頃キャリアの岐路に立ち、「自分で自分のクライアントになる」ことを選択したとのこと。具体的に、どのような選択を行なったのでしょうか? 田中さんの提言をお聞き下さい。

<短期集中連載目次>
第一回:「倒れた自分を誰かが起こしてくれる保証はない」やまもといちろう 特別寄稿
第二回:「やれ、と言われたことだけやるリスク」は誰も教えてくれない。たられば特別寄稿
第三回:「会社のために頑張るな。自分のことをやれ」田中泰延特別寄稿

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●田中泰延(たなか・ひろのぶ)氏 プロフィール
1969年大阪生まれ。ひろのぶ党党首。株式会社 電通でコピーライターとして24年間勤務ののち、2016年に退職。ライターとして活動を始める。世界のクリエイティブニュース「街角のクリエイティブ」で連載する映画評論「田中泰延のエンタメ新党」は100万ページビューを突破。電通退職後、青年失業家を名乗って綴る無職の日記「ひろのぶ雑記」も連載中。
Twitter:@hironobutnk

■ごあいさつ

みなさんこんにちは。田中泰延といいます。ひろのぶと読んでください。昨年末会社を辞めた47歳、無職です。今回、わたしに与えられたテーマは、

「衰退していく日本で、30代はどう働けばいいのか?」

えっ…。無職のわたしに何を書けというのでしょうか。たしかに今は無職とはいえ、わたしは30代の間、働いてきました。ですが、その果てになんにも仕事をしていない身分になってしまったので、参考になる話などできるかどうかわかりません。もういちど、編集部に何を話せばいいか尋ねてみました。

「熱のこもった、30代へのエールとなるような、勇気づけられる内容」

いやぁ、本当に人選ミスだと思います。しかもこのテーマに沿って書くのは3人というじゃないですか。実業家で投資家、テレビにも出ている有名人のやまもといちろうさん。編集者で、ご自身も博覧強記としか言いようのない言論活動を展開されているたらればさん。

彼ら2人に対してわたしのアドバンテージは名前が漢字であることぐらいです。画数だけは数的優位に立っています。数の力は民主主義の根源ですから、今回わたしはそこだけを頼りにお話できたらと思います。

<目次>

■失われた世代の表彰式
■衰退は普通
■その間のイギリス
■30代が選ばなければならない2つの戦略
■馬鹿者、頑張るな
■国は復活する
■爪を研ぐ

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■失われた世代の表彰式

わたしは、株式会社 電通という広告代理店に1993年に新卒で入社しました。そして2013年、勤続20周年表彰式というものに出席したのですが、そこでの支社長の挨拶に吹き出しました。「君たちは、まさに失われた20年を我が社で過ごした、失われた世代です」あのう…どこが表彰なんだ。

ですが、わたしたち同期は一斉に笑いました。まさに、日本という国を考えるとそれ以外の言い方がなかったからです。そして、その中で死なずに生き残ってこの日を迎えたのですから、まぁ、よくやったな、という奇妙な連帯感がありました。

日本は、1968年以来、国内総生産が世界第2位の経済大国でした。わたしが生まれたのが1969年ですから、わたしは物心ついてからずっと「日本は世界でアメリカに次いで豊かな国なんだ」と教えられて育ってきました。

ところが現在は、1人当たりGDPでみると世界で26位(2015年)に落ち、シンガポール、香港、台湾よりも下です。いまの30代は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」なんていう言葉も知らない人がほとんどでしょう。

いまさら言うまでもないことですが、少子高齢化、人口の減少、「日本の借金は○○兆円」なんていつも聞かされる財政危機、そして所得水準の低下、消費の減少。日本という国の衰退はすなわち「お金がない」という具体的な事実に直結します。

わたしが勤務していたのは広告会社ですから、企業のお金に余裕がなくなってくると発注額が減ってきます。ですが広告の仕事というのは、どんな仕事でも、アイデアを出し、戦略を練り、実行する手間は額の大小に関わらず同じなのです。ですから、わたしの30代、仕事は忙しいが、会社が儲からない、所得もぐんぐん上がるというわけにはいかない、そんな時代でした。
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■衰退は普通

そんなふうに、衰退する国の実感をひしひしと感じていた30代のわたしですが、歴史を眺めれば「衰退は普通だ」という思いがありました。たとえば1970年代から80年代にかけてのイギリスを目の当たりにしてきたからでしょう。

わたしが物心ついた子供のころ、1970年代、イギリスは「英国病」とか「ヨーロッパの病人」と呼ばれていました。それがずっと続き、1990年にはイギリスの1人当たりGDPは日本の半分しかなかったのです。

テレビのニュースで見るイギリスには失業者があふれ、「あんな国にはなりたくないなー」とも思いましたが、同時に、わたしは、「国というものも金持ちになったり、貧しくなったりするものなので、慌てふためくことはない。イギリス人が全員死んだかというとそうでもない」という認識も得ました。

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■その間のイギリス

では、国として衰退しきったイギリスで、なにが起こったでしょうか。それは、若い才能の台頭と、音楽産業の勃興です。仕事がない。それならギターを弾き、マイクで歌を歌うぞ、という若者が大量に出現したのです。

60年代、ビートルズやローリング・ストーンズが世界を席巻していたのは、豊かなイギリスの最後の時代でした。そこへ衰退が襲い、1977年に自分たちの追い詰められた状況そのものを音楽にしたようなセックス・ピストルズがデビューしました。その後、80年代に入るとポリス、エルビス・コステロなど、「ニュー・ウェーヴ」と呼ばれる才能が、イギリスのみならず各国のヒットチャートの上位にのぼるようになり、さらにデュラン・デュラン、カルチャークラブ、アイルランドからもU2などが出てきます。これらは「ニュー・ロマンティック」、そして「第二次ブリティッシュ・インベージョン」などと呼ばれました。

不況下、衰退下のイギリスだからこそ、世界的に突出したクリエイターが続々と生まれたのです。わたしは、衰退した国の中でどう生きるかについて、ここにひとつのヒントがあると思います。

■30代が選ばなければならない2つの戦略

わたし自身は、先に述べたように、だんだんと儲けが減って先行きの見えない会社の中で、落ち着かない30代のサラリーマン生活を過ごしました。このままがんばっても右肩上がりの年収は保証されなさそうだ。日本社会全体にもグローバル化の足音が迫ってきて、海外生活経験もなく、英語が得意ではないわたしは不安を抱えていました。

そんな人生の岐路に立つ30代、わたしが取る戦術は2つしかない。さあ、どちらを取ろうか?と考えました。それは

A.社会情勢に対応するために、自分が変わる
B.社会情勢にかかわらず、変わらない力を身につける

です。

Aに関しては明快です。

●グローバル共通語としての英語をマスターする
●株式投資や為替など金融知識を身につける
●衰退する日本ではなく、経済発展が著しい新興国に仕事を求める
(現在だと、おもに東南アジア)

などなど、ですね。じっさい、30代はじめのわたしには、マレーシアの広告会社から、「ウチに来ないか」という誘いがありました。

しかし、やめました。なぜならその移籍交渉のためにやりとりした電話やメールの英語がよくわからなくて、このままでは絶対騙されると思ったからです。

わたしは、日本が衰退していくのを肌で感じていたし、今のままでは自分はだめだという焦りはあったのですが、それに即応して生き残る努力をする、ということにはどうしても抵抗があったのです。というか、しんどそうだったのでいやだったのです。

では、残るはB案です。しかし、「変わらない力を身につける」とはなんでしょう。それは、当時健在だった、生前の父との会話がきっかけになりました。

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■馬鹿者、頑張るな

30代になったばかりのことです。わたしは父と食事をした時、尋ねられました。

「会社は忙しいか?」

「忙しいよ。あまり儲かってないけど、忙しい」

「そうか」

父は、ニコニコしながらわたしに訊きました。

「会社のために、頑張ってるか?」

わたしも、いい表情を作って答えました。

「頑張ってるよ」

すると、父は、突然険しい表情に豹変したのです。

「馬鹿者!頑張るな!会社のために頑張るな!自分のことをやれ!」

だまし討ちもいいところです。ニコニコしながら訊いたやん。あっけに取られたわたしに、父は続けました。

「社会のために役立つことはもちろん大切である。広告会社で、クライアントのために頑張ることは、世の中のために働くことである。だが、長い目で人生をみなさい。君を働かせるのは、君自身であるべきだ。お前のクライアントは、お前だ

その一言でわたしは、会社の仕事に関しては落ち度がないように勤めることを前提にしながらも、仕事が終わった深夜に、毎晩一冊づつ本を読むことを自分に義務づけました。それは、わたしが得意なこと、物心ついてから変わらない習慣を見回したところ、文章を読むことぐらいしかなかったからです。

その習慣が腹筋運動をすることだったら今頃わたしは三代目J Soul Brothersに加入してステージで腹筋を見せていたかもしれないと思うと残念です。

しかしその後、たくさん読んだ本の影響で、ぽつぽつと文章を書くようになり、こうして「文章を書いてください」という依頼や、「本を読んで解説してください」という注文が舞い込むようになりました。そして、わたしは24年間勤務した会社を退職しました。

それは、わたし自身、いつの日かわたしにして欲しかったことで、父の言ったように「自分が自分のクライアント」になったのです。

■国は復活する

さて、その後、衰退したイギリスはどうなったでしょうか?みなさんご存知のように、大復活を遂げました。サッチャー政権が導入したマネタリズムは、なかなか効果を上げないように見えましたが、90年代半ばから、その自由主義的な基礎が生きてきました。

そして金融産業と高度なサービス産業が発展し、雇用は増え、通貨であるポンドの価値も高まりました。国も、個人と同じように、変化に対応することで蘇るのです。いまのイギリスは、衰退時に栄えた文化と、復興した経済が合わさった豊かな王国となりました。しかし、それも今回のEU離脱など、時代によって変化していく様相のひとつですが。

なので、30代のみなさんには、日本はこのまま衰退する、おしまいだ、という気持ちではなく、一人一人が意識を持てばかならず国は復興するという希望をもってもらいたいと思います。

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■爪を研ぐ

いま30代のみなさんは、どのように働き方を決めるでしょうか。社会の変化に即応するか。それとも少しだけ世の中に背を向け、夜中に腹筋運動をするように研鑽するか。わたしが悩んだ二択のほかにも、いろいろ選択肢はあると思います。

ただ、わたしはいま、無職にはなってしまいましたが、どんな社会情勢にも関わらず生きていくための力がついているという気がしています。これを、少しずつ生活につなげていければいいな、と静かな決意をしています。

今回は、「衰退していく日本で、30代はどう働けばいいのか?」というお題には、まったくそぐわない話ばかりしてしまったかもしれません。

書くべきは「上司はおだてて使え!」とか「30代で貯めた1千万円で新興国ファンドに投資!」とか「残業を残業と思わないための10の呪文」とか、そういう話がよかったのかもしれませんが、どれもでまかせですから書きようがありません。すみませんでした。

最後にもうひとつ、亡き父が手紙に書いてくれた言葉を、いまの30代のみなさんにも贈りたいと思います。

「ひとりになれ。ひとりで考えよ。そのひとりの時間に、爪を研ぎ牙を磨きなさい。そうすれば必ず道は拓ける」

<了>

<短期集中連載目次>
第一回:「倒れた自分を誰かが起こしてくれる保証はない」やまもといちろう 特別寄稿
第二回:「やれ、と言われたことだけやるリスク」は誰も教えてくれない。たられば特別寄稿
第三回:「会社のために頑張るな。自分のことをやれ」田中泰延特別寄稿

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