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残業がなくなってもハッピーにならない!?「残業上限規制」に潜む光と影

2016.10.03

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「働き方改革」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 2016年9月末、加藤勝信・働き方改革担当大臣など8人の閣僚と民間有識者をメンバーとして安倍内閣が新設したのが、「働き方改革実現会議」です。タレントの生稲晃子さんを起用してニュースにも大きくとりあげられました。

この「働き方改革実現会議」で検討されているのが「長時間労働を是正するための残業時間の上限規制導入」。

日々、残業にあえぎ心身ともに疲れきっているビジネスパーソンにとっては、願ってもない朗報…と思いきや、そうではありません。残業時間の上限規制に待ち構えている落とし穴を指摘する声もあるのです。そこで、現在の労働法制も含めてこの制度に潜む問題点を探り、その問題に対してどうすればよいかまでを考えていきましょう。

月200時間もの残業をさせても合法!「36(サブロク)協定」には矛盾がある

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(厚生労働省の36協定に関するウェブページ)

雇用者が労働者を働かせることができる時間は1日につき8時間、週40時間までと労働基準法32条で定められています。しかしこれは、あくまで原則。

労働基準法36条では、法定時間の超過労働(残業)が認められているのです。ただしこれには条件が。労働組合あるいは、労働者の過半数を代表する労働者と雇用主間で協定を結び、なおかつ時間外の割増賃金を支払うことが条件です。

この協定を定めている労働基準法36条から「36(サブロク)協定」と呼ばれています。日々の残業にお墨付きを与えている正体が36協定というわけです。残業を行うために必要な協定なので皆さんの会社でも「36協定」は結ばれています。

36協定による残業時間の上限を月45時間・年間360時間までに収めるよう厚生労働省は指導しています。これだけを見ると一見、良心的に見えますが、ここに抜け穴があります。

繁忙期を考慮し、年間につき半年以内は月200時間など制限緩和を認める特別条項を36協定には盛り込まれています。つまり、「繁忙期だから」という理由で、長時間の残業をさせることが可能なのです。

「サービス残業」増加の危険。残業時間は制限されても仕事は減らない現状

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こうした長時間の残業を認めている「36協定」を「働き方改革実現会議」は見直し、労働時間の規制強化と雇用主(企業)への罰則が新設されると予想されているのです。残業時間上限の厳重な規制について加藤・働き方改革担当相は、以下のように述べています。

長時間労働是正などの働き方改革は、生産性向上を通じて企業側にとってもプラス

(出典:REUTERS

しかし、皆さんの職場の状況から考えていかがでしょう?連合(日本労働組合総連合会)が2015年1月16日に発表した調査(連合労働時間に関する調査」)では、残業の理由として以下の声があがっています。

「仕事を分担できるメンバーが少ない」53.5%
「残業をしなければ業務が処理しきれないほど業務量が多い」52.6%
「職場のワーク・ライフ・バランスに対する意識が低い」23.7%

こうした根本の課題を解決しなければ、残業は減りません。残業しないと片付かない量の仕事がある。しかし、残業時間は厳しく規制。違反には罰則が課せられる。そうなった時に何が起こるのでしょうか。

フリージャーナリストの前屋毅氏は、サービス残業増加への懸念を綴っています。

残業時間の上限内で終わらなかった仕事も放り投げず、残業するか家に持ち帰ってやることになる。国が決めた上限以上の残業に賃金を払えば、企業が国に逆らうことになる。だから、払わない。つまり働く側にしてみれば、賃金のもらえない残業、つまり「サービス残業」になってしまう。

(出典:Yahoo!ニュース
残業の規制強化で表向きの「労働時間が減る」=「サービス残業増加」を前屋氏は指摘しているのです。働くビジネスパーソンを守るはずの改革が、サービス残業を増やしかねないという指摘です。

今野浩一郎 学習院大教授を座長に迎えて厚生労働省が開いた、残業時間の上限規制導入について議論する有識者検討会でも

「多様な職種や業種がある日本では一律の規制は困難」
上限を設けることで企業が長時間労働を隠す懸念がある

といった指摘があがっています。(参照:「残業上限規制を議論=働き過ぎ是正へ−厚労省検討会」時事ドットコム2016/9/9)

このように残業の上限規制は、サービス残業を増やす懸念があちこちから出ています。では一体、どうすれば残業は減らせるのでしょうか。

自由に職場を選べる雇用流動化で、長時間残業の職場が選ばれない仕組みで残業を減らす

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労働時間や解雇の規制緩和で残業を減らせるという意見があります。人事コンサルタントであり、作家でもある城繁幸さんは次のようにブログで発言しています。

日本のホワイトカラーの労働時間が先進国で一番長いのも、特にフルタイム勤務者のそれが過去15年間下がるどころかむしろ増えているのもそのとおりだ。

だが、その理由は、クリントンやサッチャーの陰謀などではなく、単に終身雇用では雇用調整ができないから、企業が基本的に残業で対応しようとする点にある。多少の需要が増えても採用増より残業でカバーすることを選び、不況になれば新卒採用を打ち切ってさらに正社員の残業を増やす。景気の良し悪しに関わらずサラリーマンは残業漬けになるわけだ。
(中略)
日本においても、解雇規制を緩和すれば企業が新規採用を増やすという調査結果がある。※イデオロギー抜きで、真剣にワークライフバランスと雇用状況の改善を図るなら、流動化に舵を切るべきなのは明らかだろう。
※99年、慶応大学産業研究所調査。整理解雇が容易になれば従業員を増やすと解答した企業が減らすと回答した企業の三倍近い。

(出典:Joe’s Labo

城繁幸さんの意見を踏まえるとこう考えることができます。

1. 仕事の増減に応じて雇用調整ができないから、残業で対応することになる

2. 解雇規制を緩和すれば新規採用増で仕事の増減に対応でき、ワークライフバランスの改善ができる

仕事が増加すれば雇用を増やして対応する。そうすることで、残業が増加する事態を防げるわけです。もう一つ、雇用の流動化で起こることを城繁幸さんは次のように指摘していらっしゃいます。

会社が本気で従業員を過労死寸前まで働かせたいのなら、相当高い年俸を用意しないといけない。逆に安月給にしたいなら、とっても楽ちんな作業か、実労働時間をうんと短くするしかない。これは別に珍しいことではない。売り手と買い手の双方に選択肢のある普通の市場であれば、ごく当たり前の話である。

(出典:Joe’s Labo

雇用の流動化で、働く側であるビジネスパーソン(売り手)と雇い主(買い手)の双方に自由な選択肢がある労働市場を生む。そうすると、以下の3つの状態が生まれるという考えです。

1. 解雇されにくい・しにくい労使関係を主軸にした、長時間労働もやむなしの制度をやめられる
2. 流動的な雇用に基づく労働市場のコントロールを活かすと、残業をさせるなら高年俸としなければならなくなる
3. それにより、雇用主が残業をさせるインセンティブが無くなる

たしかに、自由に転職できるならば、残業が多い職場にしがみつく必要は確かになくなります。

まとめ

城繁幸さんの考えから、以下のように考えられます。

1つは、残業規制の強化よりも雇用の流動化で長時間の残業を防ぐ。なぜなら仕事の増減は、残業の増減ではなく人の増減で対応できるから。
2つめは、雇用の流動化によって働き方や働く場所を働く側が自由に選ぶことで、残業をさせるには高年俸が必要となる。すると、残業をさせることが難しくなる。

この2つの意味で、日本の長時間残業という問題が改善される可能性があります。上記の2つのうち、まずは後者に注目してみてはいかがでしょうか。つまり、ライフステージや自らの成長に合わせて、働き方や職場を私たち自身が自由に選んでみるのです。長時間の残業を我慢するのではなく。

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