日本のWEBサービスは視野が狭すぎる!連載第三回 本田雅一

2017.05.26

Work Switch編集部です。「日本のWEBサービスは**だ!」をテーマとした連載、第三回目の書き手はフリーランス・ジャーナリストの本田雅一さんです。 
 
IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャーと幅広い分野の第一線で取材を重ねる本田さんは、日本のWEBサービスをどう評価しているのでしょうか?

shutterstock_530900965

■ユーザーの嗜好性を表面的に捉えていないか?

 さて、困ったぞ。“日本のWEBサービス”がテーマだとか。

 そもそも“日本の”WEBサービスとはなんぞや?と悩んでいたら、すでに第1回目の筆者が同じ悩みを抱えていたようだ。ということで、二番煎じになりかねないので、“日本のWEBサービス”なんて大上段に構えたテーマで書くと偉そうに見えないかしら……といった懸念には気づいていないことにして、好き勝手に感じていることを書き進めていくことにしたい。

 本サイトでは始めての執筆となるワタクシ、本田雅一はコラムを書いたり記事を書いたりで生活している人間だが、一部でコンサルティングや日本企業の海外進出時のお手伝い、あるいはスマホの開発チームに参加したりと自由に仕事をさせていただいている。

 そんな中で比較的、最近に加わったのが新しいソーシャルマーケティングのプラットフォーム開発やマーケティング、ブランディングのコンサルティング事業だ。といってもコンサルティング事業を僕から持ちかけたわけではない。

 PR会社から「取材しませんか?」と案内を受け、何人かの起業家と会っていたところ、「記事化はどちらでもいいから相談に乗ってほしい」、と連絡が来始めたのが最初だ。もちろん、契約には至らず仕事としては成立しなかった案件も多数あるが、それだけインターネットソーシャルの移ろいが激しく、多くの経営者が迷いや悩みを抱えているということなのだろう。そして、各社の現状について話を伺う機会を重ねるうち、あることに気づいた。

“隣の芝がきれいに見える”という言葉は、隣のお家の庭は丸見えのように思えて、実際には何もわかっていない……情報が少なく判断を間違えることがある……ということを示している。そんな“当たり前のこと”なのだが、彼らが判断を迷ったり、あるいは視点がズレていたりしているポイントを聞いていると、これほどまでに“隣の庭”が見えていないものなのか?と驚いた。

 要は視野が狭く、現実が見えていないのだ。

 もちろん、視野が狭いといっても、情報化社会の現代。さまざまな数値が経営判断をサポートしてくれるわけで、まともな経営者ならば各種サービスモデルに合わせて事業を最適化できる。それができないのは能力がないだけのことと声を荒げる方もいるかもしれない。

 しかし僕が感じたのは、物事を俯瞰的な視野で見たり、あるいは注目すべきポイントに対して深掘りしたり、といった当たり前のことができていない……ということではない。時間軸方向……すなわち、時代による消費者・ユーザーの嗜好性や感覚の違いなどを表面的にしか理解できず、せっかくの良いコンセプトも台無しにしているケースがあるということだ。

shutterstock_391082263

■スマホ世代はググらずツイッター検索する

 実際の事例となると具体的な企業名を出すのは憚れるが、もっとも多いのは“ネット世代”の起業家が、“スマホ世代”の若年層をターゲットにサービスやコンテンツ事業を行う際のセンスのズレである。

 この1年ぐらいでいくつか記事になっている(筆者もしたことがある)のでご存知の方も多いだろうが、今の高校生や大学生、あるいは20代の半ばまでの子たちは、“ググる”ことをネットライフスタイルの中心として捉えておらず、積極的に使いたいとも思っていない。もちろん、仕事やレポート作成などの“作業”を行う際にはググることもあるだろう。しかしプライベートのライフスタイルで“ググり”に対するマインドシェアは極めて小さい。

 今どきのスマホネイティブ世代が情報検索に利用するサービスとして、実はツイッターがもっとも優先順位として高い。グローバルのアクティブなツイッターユーザーの10人に1人が日本人では?と言われるほど、日本ではツイッターが使われているという背景もあって“現在”を知るために、若者たちはツイッターを検索する。

 たとえば、“新宿駅で事故があって電車が来ない”とき、ネット世代のオジさんは新宿駅の状況を知るために関連施設のWEBサイトをググろうとする。一方、スマホネイティブ世代はツイッターを検索して新宿駅から上がっているリアルな声を拾おうとする。

 同じようなズレは“イイなと思う商品”の探し方にも現れる。

 「新しいジャケット、いいものがないかな?」と思ったとき、インターネットモールや好みのブランドのオンラインショップ、あるいは季節のオススメジャケットを紹介するファッション系情報サイトなどをググるのはネット世代。しかし、今どきの子は自分と似たセンスを持つ個人同士がインスタグラムなどで結びつき、互いに写真で情報発信をしながら……あるいはトレンドに合ったハッシュタグを参考に写真を一覧して「あっ、これ良い感じ!」と、自分のセンスに合う商品を見つけてくる。

 いずれも典型的な例のため「んなことはわかってるよ、ぼーけ」と思いながら読んでいる方も多いだろう。しかし、個々の読者がわかっているからといって、それがサービス事業全体の設計に反映されているとは限らない。また、いくら現場がわかっていても、経営者など幹部が見えてないこともある。

 たとえば、DeNAが昨年末にキュレーションプラットフォーム事業で問題を起こした後、第三者委員会の調査報告書が作成されたが、その際、トップは“目標とする株価を達成するために必要な売上げを出すには、どの程度のKPIがサービスに求められるか”を逆算し、そのKPIを達成するために、検索流入を増やす(いわば“ググる人たちを集める”)方法を模索、徹底しようとしていたことが明らかになっている。

 医療・健康サイトのウェルクに関する問題はともかく、センスがないと思うのは、やはりググる人たちを集めて、キュレーションプラットフォームという、スマホ世代向けの情報サービスを展開しようとしていたことだろう。「いやいや、そこじゃないよね?」と中の人はきっとわかっていたはずだ。

 その証拠にDeNA本社からの指示を守らず(同時にコンプライアンスも守っていなかったのだが……)運営されていたペロリのMERYは、利用者から圧倒的な支持を受けていた。ググる人たちは相手にせず(SEOもかかっていたが、そこがキモではなかろう)、スマホ・SNS世代のコミュニティをしっかり作り込んでいたからだ。

 KPIを上げるために逆算してKGIを決めるのが悪だと断じるつもりはないが、企業や組織は構成する人材がどんなに優秀でも、目標設定を誤ると正しい動きをしない。KGI設定が間違っていたからこそ、問題が引き起こされたという文脈で見ると、昨年末に話題となったこの問題も別の側面が見えてくる。

shutterstock_342696383

■グローバルではテレビ受像機市場が復調している

 もっとも、僕は「旧世代の経営者が市場の世代ギャップを読み取れないケース」だけを指摘したいわけではない。その逆に、スマホ・SNS世代の感覚を持った新しい起業家やマーケティングのスペシャリストが、レガシー市場を軽視しすぎ事業機会を見逃しているケースもあるからだ。

 最近、そのことを痛感したのがグローバルにおけるテレビ受像機市場の復調である。今後数年にわたってテレビ受像機市場は成長が見込まれているが、スマホ世代からは「テレビなんて、いまどきたいして見ないし、スマホやタブレット、あるいはその辺に転がってるパソコンで見ればいい」と軽視されがちだ。

 ところが今年春に出したgfu(ドイツ工業会)の統計を注意深く見ていると、地域ごとの差はあるものの、欧州や南米、アジアなどで世帯あたりのテレビ保有台数が増加し、さらにテレビ画面サイズの大型化も進行していることが明らかになってきた。

 gfu、あるいは統計会社のgfkアナリストなどの話を聞いた上で僕自身の意見を言うと、この現象を引き起こしているのは世界的なストリーミング視聴サービスの隆盛だ。NETFLIXやAmazon Videoが引き合いに出されることが多いが、日本でもダゾーンの成長が注目されているし、アジアではマレーシアを中心としたiFLIXが急成長、今年はインド・中東にまで進出ししている。

 こうしたストリーミング視聴により、テレビ受像機を使って映像を愉しむ時間は短くなっているが、一方で映像作品に触れる機会はスマートデバイスを通じて増えている。そして、そんなスマートデバイスを使って視聴している消費者も、自宅のリビングにいるときにはネットストリーミングに対応したテレビを使いたいと思っているのだ。受像機での視聴時間が短くなったからといって、必ずしもマインドシェアが落ちているとは限らない。

 また放送とは異なり、自由な時間に視聴できるため、映像の愉しみ方が「個」に集約されるようになり、その結果、テレビも「個」に紐付き始めている。つまり、映像配信サービスによってリビングルームのテレビだけでなく、寝室や子どもの部屋などにテレビの場所が拡散し、それが保有台数の増加へとつながっている。

 もちろん、かつてのスマートフォンの爆発的な市場増加や、高い収益性は求められないかもしれない。しかししばらくの間、テレビ市場はプラス方向に向かっていくだろう。

 KPIの推移だけを見ていると、こうしたレガシー市場の実態や消費者の行動心理から離れてしまう場合がある。上記はWEBサービスではなく、電機市場の話だが、おそらく似た事例はWEBサービスの世界でもあるだろう。

 異なる世代の消費者が混在し、コミュニケーションができているようでできていない。そんな状況は今に始まったことではなく、将来さらに新しい世代が生まれ、そこに大きな断崖が生まれるだろう。

 情報化が進み多くの指標値をリアルタイムでモニターできる現代だからこそ、その読み取り方、視点を常に見直していく必要があるのではないか。読み取り方、感じ方に正攻法はない。時代とともに変わるものだからだ。

<了>

このトピックスをみんなとシェアする
このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事が気に入ったら

Work Switchの最新情報をお届け



Follow on twitter